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読書感想文 〜英米文学者と読む「約束のネバーランド」(著:戸田慧)〜

※この記事には「英米文学者と読む『約束のネバーランド』」本書および、「約束のネバーランド」原作漫画のネタバレを含みます。

 

 

この本がめちゃくちゃ面白かったので感想文です。

 

約束のネバーランド、好きなんですよ。以前鬼滅の刃の完結に衝撃を受けてブログの記事にしたりしましたが、実はどちらかというとわたしは鬼滅より約ネバ派。

 

 

 

この本も、ジャンプ編集部“公認”考察本! ということで早々に手に入れました(“公認”ではあるし、作中のイラストの使用許可も得ているけれど、「公式解説本」ではないとのこと)

「作画のぽすか先生もツイッターで宣伝してたし、気になる! どんな本なんだろう?」と思っている人がいるかもしれない! というお節介と、面白い読書体験を書き記しておきたい!! という真面目な気持ちのもと、紹介と感想を書いていきたいと思います。

 

↑ぽすか先生も「スゴい本」って言ってる! スゴい本でした!!

 

この本を書いた理由について、著者の戸田先生広島女学院大学人文学部の国際英語学科准教授だそうです)はまえがきでこう書いています。

 

『約ネバ』において、読んですぐに理解できることは、あくまでも氷山の一角に過ぎず(それだけでも十二分に魅力的で楽しく、そして複雑なのですが)、その下には膨大な語られざる物語が存在しており、それがこの漫画を「文学」と呼ぶにふさわしい威厳と、「ジャンプらしくない」とも表現される深い魅力を与えているのだと思います。

 

しかしある時期から、この氷山の隠れた八分の七を読み取るためには、ある程度の知識が必要なのでは、とも思い始めました。

 

そこで本書では『約ネバ』をより深く味わうための手がかりとして、イギリスやアメリカの文化や児童文学、ユダヤキリスト教についての基礎知識を提供し、「文学」としての『約ネバ』の解釈の可能性を紹介したいと思います。

(全て本書5pより引用)

 

 

要するに、『約ネバ』の物語やキャラクターのモチーフになっていそうなもの(イギリス児童文学とか歴史とか文化とか宗教とか)を紹介するよー! って本です。

 

例えば、「『約ネバ』って『不思議の国のアリス』と同じで、白いウサギ(リトルバーニー)の登場で物語が始まるよね」とか、そういう話。わたし、このリトルバーニーと白ウサギの話題で「確かにーー!!」ってシビれちゃって。「リトルバーニー」も「アリスに出てくる白ウサギ」も知っているけど、そのふたつをこんなふうに結びつけるのか!! って感銘を受けたんです。

 

こんな感じで『約ネバ』に影響を与えていそうなモチーフや、そのモチーフと『約ネバ』の類似点を解説してくれてます。

わたしの体感では、それらの「モチーフ」の半分……くらいは高校までの社会の授業で聞いたことがある……気がする……。でもそんなのぶっちゃけ覚えてないし、学校の授業なんて時代と学校によって変わってくるし、まだ学校で習ってない歳の読者だっているわけだし、「ココが『約ネバ』に関係してますよー!」みたいな教え方もしてもらえないので、ほぼ全部新鮮で興味深く感じました!

 

なにより、社会の教科書に載っているだけだったら大して面白いと思わなかった歴史も文化も宗教も、『約ネバ』と関連付けて紹介してもらえたらめちゃくちゃ面白い!!

これから学校で世界の歴史を習う中学生さんや高校生さん、ぜひ読んでみてほしいなー! と思いました!!

(ちょっと嘘吐きました。高校生の頃ヘタリアのおたくだったから世界史は面白かったし好きだった)(その話はまたいずれ機会があれば……)

 

ちなみに、この本のスタイルは「新書」。漫画と小説ばっかり読んでいる身からするとちょっと馴染みのないものだから二の足を踏んじゃう方もいると思います。わたしも新書とか大学生のころ以来久しぶりに読んだし、大学生のころも授業やレポートや卒論に関係あるやつしか読まなかったので、「全部読み切れるかな?」ってちょっとドキドキしていました。

でもサイズも厚さもジャンプの単行本と同じくらいだし、字もそんなに小さくない(文庫サイズの小説の方がよっぽど字が小さい)し、ふりがなも結構振ってある(流石にジャンプ漫画みたいに全部ではなかった)ので、『約ネバ』を面白く読める方なら「難しくて読めない!!」ってことはないんじゃないかなあと思います。

難しい言葉もそんなに多くない(使われているときは解説もついてる)し、語りかけるようなやさしい「ですます」調だし。そんなに気負わずに手に取って大丈夫!!

 

 

で、ここからが本題。

この本のなにが面白かったかと言いますと、「『約ネバのここが好き!』に根拠が示されていく体験」ができたところです。

 

わたしね、約ネバにハマった理由って、大きく2つあるんです。

 

ひとつめが、背景とかビジュアルのイメージ

1話のGF(グレイス=フィールド)ハウスの時点で「あ“ーーーーーー!!!!!好き!!!!!!!」ですよ。

だってとにかく建物がカワイイ。煉瓦造りの洋風建築、尖った塔とそこに設置された大きい時計、凝った形のランプ……。

もうシルバニアファミリーの家として出してくれ!!!! 部屋に飾りたい!!!!!!

 

そんで、8巻からの猟庭編の舞台GP(ゴールディ・ポンド)はもっと凄い。

一軒でもカワイかったお家が、何軒も何軒も並んでいる……だと……!?

三角屋根に煙突がついたお家、四角い格子窓のついたお家が、石畳の道に沿ってずらーーっと!!

いやもうおとぎの国じゃん!!!!

64話のラストに見開きでそのGPの景色が描かれてるんですけど、ここをジャンプで読んだときには物語の展開はめちゃくちゃ不穏なのに背景のカワイさだけで脳内に幸せ物質が満ち溢れましたね……。

 

要はそれくらい、『約ネバ』の背景に出てくるようなちょっとレトロな洋風建築が好きなんです。わたし。

日本に実在する場所で言えば、門司港レトロとか神戸の異人館とか! 横浜も去年くらいに初めて行ったけど素敵でしたね……!!

(たぶんこの趣味はハリーポッターの映画を観て育ったあたりからきている)

 

で、ふたつめの『約ネバ』にハマった理由は、設定の深さと明かされ方がめちゃくちゃ面白かったからなんです。

設定って言うと途端に薄っぺらい感じがしてあんまり好きじゃないんですけど、「主人公のエマたちにとってこの世界が地獄である理由」ですね。

 

『約ネバ』の序盤では、この理由はわからないんです。「理由はわからないけど俺らこのままだと食われちゃうから逃げようぜ!」で話が進む。

その食われちゃう理由がね、6巻47話「昔話」でやっとわかるんですけど、このとき「ぞっっっ……」としませんでした? わたしはした。

フィクションだから、ファンタジーだから、そんなわけないんだけど、もしかしたらわたしたちが生きている現実世界のどこか裏側に「鬼の世界」が、「GFハウス」があるんじゃないか……?? と思ってしまって。

でも、この「ぞっっっ……」って「面白い」なんですよね……。物語の魅力に一気に引きずり込まれるときの感覚。「もしかしたら本当にあるかも……」っていうリアルな手触りって、フィクションをめちゃくちゃ面白くしてくれるんですよね……。

 

しかも、この「鬼の世界」もリアル。フィクションなのに、「鬼」という架空の存在が生きる世界の話なのにリアル。

というか、この「リアルさ」の礎になっているのが、英米文学者と読む『約束のネバーランド』」で紹介されている、文学や歴史や文化や宗教なんだと思うんです。

(やっとこの本の話に戻ってこれた……)

 

47話以降、鬼たちがどんな世界に生きているのか(エマたちが暮らしていたハウスの外の世界)が少しずつ明かされます。

鬼の世界にも、「偉い人」や「金持ち」がいる。宗教がある。社会がある。その社会のモデルになっているのが、イギリスの階級制度なのでは? とか、ユダヤ教キリスト教の言い伝えや聖書に出てくる人物がモチーフになっているのでは? とか、この本が教えてくれるんです。

 

こうして実際の社会がモデルになっていることで、『約ネバ』を読むときに「実際の人間の社会もこんなトコあるよね……」っていう感覚が生まれているんだと思います。戸田先生みたいに外国の文化や歴史に詳しくなくても、「どこか(社会の授業とか今まで読んだファンタジーとか)で聞いたことある話」なんです。

だから鬼たちの階級制度が理解しやすいし、初登場のキャラクターに対して「こいつはきっとこんな奴だ!」と想像が膨らむ。読み進めていって、思った通りだと気持ちがいいし、予想を裏切られても(それが納得のいく裏切られ方だったら)面白い。

 

本(漫画含む)を読んだり、新しいことを知るときの「面白い」の種類のひとつに、「知っていることと知っていることが繋がる」「繋がっていることに気づく」っていうのがあると思うんです。パズルのピースがハマっていくような面白さ

この本に書いてあるような知識を持っていると、「手持ちのピース」が多くなるなあと思います。ジグソーパズルと違って「正解」はないから、沢山「知識のピース」を持っていた方が色んな繋がりに気付ける。この本はこの世にたーっくさんある「知識のピース」の中から、『約ネバ』を読んでいるときに使えそうなものを戸田先生が選んで紹介してくれている。戸田先生なりの「ピースの繋げ方」を見せてくれている。そんな印象を持ちました。

 

それに、「約ネバの好きなところ」として最初にハイテンションで挙げた(ハイテンションになっちゃうくらい好きなんです。目に入って最初に感じる脳直の“好き”は気持ちイイ)ビジュアル部分も、鬼の社会が外国(イギリス)の文化や社会に基づいているところから組み上がっていったのかな……と想像ができます。

もしかしたら、わたしみたいにレトロな洋風建築大好き! 海外ファンタジー大好き! っていうタイプの読者の心をまずビジュアルで掴んで、イギリスの社会や文学が礎になっている物語にどんどんハマらせるためのあのGFハウスのデザインなのかも……。

和風の世界観が好きな人と洋風の世界観が好きな人の持っている「知識のピース」の種類を見てみたら、後者の方がきっと『約ネバ』を読んでいて「使える」ピースが多いだろうし。考えすぎかなあ。

 

 

あともうひとつ、この本では少年漫画だけれど主人公が女の子であることから、ジェンダーに関する章も設けられています。

これもめちゃくちゃ興味深いんですけど、ネットでジェンダーの話をするのは……ちょっと……苦手……こわい……(小声)という意識を持っているので、詳しい言及はまたの機会に、気が向いたときにします。

ステレオタイプジェンダー(男はこう、女はこう、みたいなやつ)早く無くならねえかなあああああと思う一方で、わたし自身「少年漫画に出てくる戦う女の子が好き」という自覚があるし自分の好みのキャラクターを端的に言い表したいときにその言い方をすることがあるので、人のこと言えねえ……と思っております。

ジェンダーの話、ブーメランのように自分に返ってくるから、ムズカシイ。

 

以上、長くなっちゃったのでここまで読んでくれた方がいるのか心配ですが、めちゃくちゃ面白い本だった! ってことが伝われば幸いです。

 

読書感想文楽しいのでまた面白い本を読んだら書きたいですね!

 

それでは!!!